〇令和4年度 第2学期始業式 式辞

8月25日(木)

自分の仕事の核になるもの

 みなさん、おはようございます。今日から2学期が始まります。有意義な夏休みが過ごせたでしょうか。異常に暑かった今年の夏ですが、みなさんは自分のやりたいことができたでしょうか。夏休みの間に、何かに挑戦したり、没頭したりできたでしょうか。みなさんが、部活動や補習・学習合宿、試合やコンクール、ボランティア活動などで活躍したのを見たり聞いたりしてとてもうれしかったです。そして「挑戦」というテーマで日本一短い手紙を誰かにあてて書くという宿題を出しましたが、みなさん考えて書いてくれましたか。ぜひ提出してください。
 さてみなさんはこの人を知っているでしょうか。この人は磯田道史(いそだ みちふみ)さんで岡山県出身の歴史学者です。テレビにもよく出ていますが見たことありますか。NHKの大河ドラマの時代考証をしたり、様々な番組で歴史やニュースについて解説したりしています。映画にもなったこの「武士の家計簿」という本を書いた人です。本校の図書館にはなんと著者のサイン本がありました。
 この磯田さんがこの夏8月14日に甲子園球場に高校野球を観戦に行った時のインタビュー記事が次の日の新聞に載ってました。2回戦の兵庫県代表の社(やしろ)高校と東東京代表の二松学舎大学付属高校の試合を観戦して、「兵庫県の山あいにあって小技もうまい社はさながら戦国大名の真田家のようで、東京の江戸城わきにあって戦力も充実している二松学舎大付属は徳川家のようで、試合は大阪の陣のようでした。」と歴史上の人物や出来事に例えているのを興味深く読みました。今日はこの人がどのようしにして歴史学者になったか、そしてそこから私たちに伝わるメッセージについてお話ししたいと思います。
 磯田さんは小さいころから「なぜ」を考える子どもで何でも自分でやってみて確かめようとしたそうです。例えば小学生のころ、庭に出雲大社の模型を作ったり、近所の原っぱで雑草を縄にして素敵な屋根の竪穴式住居を作ったりしたそうです。また近隣の石仏の拓本を取って回っていたら、同級生の女子から「オジン」と馬鹿にされて傷ついたけど続けたと言っています。そのころ、弥生土器の再現にも夢中になり、焼いては試すを繰り返していたけど、黒くなるだけなぜ本物のように赤くきれいに焼きあがらないのだろうと思いました。そこで図書館で窯業の本を読みます。そこには「土器が赤くきれいなのは土の中にある鉄分である」と書かれていて、すぐにさびた鉄板を集め、表面を削って泥に混ぜたら本当に赤く焼きあがったそうです。そのとき、人類が焼き物の技術を得るのに一万年もかかったのに、文字を読めば一日でその技術が得られるというのは衝撃でしたと言っています。本というものはとんでもないもので、小学生の自分が一日で人類の知恵を得てしまえるとわかり、それですべての図書館の本を読み尽くそうと決めたそうです。小学生のときにこのようなことを考えるとは本当にすごい人です。
 そして今度は自分の高校時代に甲子園の高校球児を見たとき、自分より3学年上のPL学園の選手が「プロ選手をこえる気構えと実力に見えた」そうです。だから、磯田さんは自分が当時力を注いでいた古文書の解読が並の大学の歴史教授よりもできる高校生になろうと思ったそうです。大学では自分の好きな歴史が研究できるところへ進みました。
 今度は、自分が何に引かれるのか、止められない興味は何か、ちょうど「雪だるまの芯」に当たる仕事の核というものを探し求めるようになり、それが日本史だったと語っています。直感を信じ、自分の好奇心を素直に伸ばすことは仕事の要になり、その人の仕事人生は楽しいだろう、長い人間の歴史を見ると好奇心こそが扉を開くことがわかると言っています。
 さて、みなさんはいかがでしょうか。これをやっていると楽しくて楽しくしかたがないというものがありますか。物事に対して、なぜだろう、どのようになっているのだろう、見てみたい、やってみたいという好奇心をそそられるものがありますか。この磯田さんのように子どものころから自分の興味あることに没頭し、それを職業にできるのは簡単なことではないと思います。しかし、「好きこそものの上手なれ」ということわざもあります。何事もやってみないとわかりません。毎日の勉強の中で、部活動やボランティア活動の中で、趣味の活動の中で、みなさんが面白いと思うこと、楽しいと感じること、それをとことん突き詰めるように頑張ってみてください。それが直接仕事に結びつかなくても、仕事を選ぶ上で、仕事の中で、きっと役立つと思います。本当に自分がわくわくする気持ちが入っていることこそ、仕事の中で生かすことができるとこの歳になって私も思います。
 2学期に入ってすぐ龍王祭があります。普段とは異なる役割がクラスやチームの中でできると思います。クラスやチームの中で協働しながら何かを成し遂げようとするときは、自分の感性や得意なことまた未知の力を発揮する機会でもあります。コロナ対応で制約がありますがそれに対応をしながら、いかに力を発揮して楽しむか考えて、様々なことに挑戦してください。自分が本当に興味あることが見つかるかもしれません。そして周囲の人に対する思いやりを忘れないように。それではこの2学期も、「夢 行く 鷲羽、You Make Washu!自立、挑戦、思いやり」を胸に進んで行きましょう。