○第2学期 始業式 式辞

令和5年 8月25日 

 皆さん、おはようございます。いよいよ夏休みも終わり、今日から2学期が始まります。今年の夏は本当に今までにないくらい毎日暑い日が続きました。皆さん、元気に有意義な夏休みを過ごすことができたでしょうか。勉強や部活動、または自分の趣味に精を出したでしょうか。その中で何かわくわくすることをしたでしょうか。

 1学期の終業式の式辞で皆さんに挑戦についての私の手紙を披露しました。

倉敷鷲羽高校の生徒のみなさんへ
「挑戦とは壁の向こうへ行こうとすること。跳び越えるか。穴を空けるか。大回りするか。」です。2学期は龍王祭をはじめ、修学旅行、そして3年生は就職、進学の正念場です。目の前に壁が立ちはだかっています。それを皆さん自分自身でまた周りの人の助けを借りて、壁の向こう側のまだ見ぬ世界へ行ってください。

 今日は私がこの夏に体験して考えたことについてお話します。
 私は7月の終わりから8月の初めにかけて、群馬県へ行ってきました。これは本校が地域と連携した探究学習を頑張っていることを知った群馬県の先生が、ぜひ群馬県の探究学習の会で取組を発表して欲しいと言われて、6人の代表生徒の皆さんと岡田先生と行ってきました。それぞれが自分が行っている商品開発などの課題研究について発表し好評を得ました。それからもっと大きなテーマ、地球温暖化、AI、少子化などの問題について他県の生徒と一緒にディスカッションをしました。他県の大勢の生徒の前で発表したり、ディスカッションで活発に自分の意見を言ったりしている本校生徒の姿を見てとても頼もしく誇らしく思いました。まさにYou Make Washuでした。

 群馬県では大間々町というところの「三方良し」の会の会長松﨑さんの講話を聴きました。皆さんは「三方良し」という言葉を聞いたことがありますか。これは今の滋賀県である近江の商売人から広がった商売の哲学とされています。どういう意味か想像がつきますか。三方すなわち、三つの方向ともよいということはどういうことでしょう。まず、売り手である自分です。売り手がもうけるためにするのが商売だからこれは当然でしょう。では自分だけ得をすればいいのでしょうか。近江商人の考えでは買い手、すなわち商売の相手にも利益があるような商売をすべきだということです。そして、商売をする人だけが得をすればいいのでしょうか。そうではなく、商売をすることによって、世間良し、すなわち、社会全体がよくなるようにしなければならないという考え方です。「売り手良し、買い手良し、世間良し」です。

 松﨑会長さんはその話の後、江戸時代創業の「日本一しょうゆ」という古い醤油屋さんの見学に連れて行ってくれました。そこには何百年も前から使われている大きな醤油の木の桶がいくつもあり、醤油が発酵してぶつぶつ言っていました。昔、この大間々町で大きな火事が起こりました。昔なので消防車など来ません。その時、この醤油屋の主はどうするべきか考えました。自分の蔵の中にある醤油が被害を被らないように固く門を閉ざし、火の粉が醤油に及ばないようにするか、それとも、蔵を開けて、迫りくる火を鎮めるために醤油で消火活動をするか。皆さんならどうしますか。この醤油屋の主は近江商人である創業者の商売哲学を守り、今こそ「三方良し」の精神で自分の店だけでなく、町の人々を助けるべきだと決心し、蔵を開いて、大事に大事に醸造していた桶の中の醤油を水の代わりに使って消火に協力しました。この醤油を使った消火活動のおかげで、火事の被害を小さくすることができたそうです。まさに自分だけの幸せを考えるのではなく社会の幸せを考えての行動で、一時的には大損だったと思いますが、町の人々から大変ありがたがられて、以前にもまして商売が繁盛するようになり今に至っているそうです。
 この町のエピソードを大間々町の人々は誇りを持って大事に次の世代へと語り継ぎました。またこの「三方良し」の精神を象徴する井戸がありました。その井戸はこの醤油屋の敷地内にあるのですが、だれでも自由に使ってよいということです。昔ながらの手押しポンプがついていて、かんかん照りの中、それを使って井戸水をくみ上げると、とても冷たくて気持ちがよかったです。
 そして、「三方良し」の会の松﨑会長は次のように言われました。「地域の文化や歴史、行事、建造物などは、誰かが残そう、伝えようと意志を持って働きかけなければ、決して後世に伝わったり、残ったりしない。だから、若い皆さんには自分の地域のことをしっかり学んでほしい。」と言われました。松﨑さんのように意志を持って地域のためにボランティアで取り組んでいる方のお話は本当に重みがあり、印象に残っています。

 この「三方良し」の考え方は学校生活すべてにも当てはまると思います。勉強や部活動やその他の活動は何のためにするのでしょうか。まずは自分のため、自分が楽しむため、自分が将来利益を得るため、もちろんそこが始まりです。そして自分が何かをすることによって、相手が喜び、家族や友人や自分に関わる周囲の人が喜んだり、利益を得たりしたら自分も嬉しいと思います。その自分のよい行いや喜ばしいことは小さな事かもしれないけど、みんなが少しずつ自分の力を発揮することで、クラス全体にまた学校全体に、地域に、もっと広い社会の喜びや利益に必ず繋がると思います。これがいつも言っているYou Make Washu!の精神です。
 今日は「三方良し」の話をしました。何かことをなすとき、どうすべきか迷ったとき、思い出してください。それでは2学期も元気に楽しく一生懸命やっていきましょう。