○令和5年度 第2学期終業式 式辞

令和5年12月23日 

『伝統文化とポップカルチャー』

 皆さん、おはようございます。いよいよ本年度2学期が終了しようとしています。この2学期を振り返って皆さん、いかがですか。充実していましたか。楽しかったですか。成長しましたか。
 まず、嬉しいお知らせから。本校が令和5年度岡山県教育関係功労者表彰において公立学校で特に業績のあったものとして表彰されました。受賞理由は「You Make 鷲羽!自律 挑戦 思いやり」を教育目標として、総合的な探究の時間である「児島未来学」を軸に、地域と連携した課題解決型学習を展開し、他の模範になっているというものです。本校の皆さんは「You Make 鷲羽!プロジェクト」として、総合的な探究の時間「児島未来学」で様々な取組を行っています。1年生の「働くLAB」、2年生の「児島てくてく」、3年生の「課題研究」です。先日の学校自己評価アンケートでもこれらの取組が進路意識を高め、価値観を広げるのに役立っていると答えた人が全体で84%いました。特に3年生では91%で、多くの人が自分の進路を考え価値観や視野を広げていることを嬉しく思います。また、発展的な活動として、教科の授業や、部活動、ボランティア、有志の活動で校内校外を問わず、様々な探究活動を行い、様々な発表会やコンクールでその活動と成果を発表しています。それらの活動が評価され学校全体での表彰はとても喜ばしいことです。こんな嬉しいことはありません。これからも「自律 挑戦 思いやり」を胸に自分で考え、周りの人を思いやり、様々なことに挑戦してください。
 さて、今日は2学期の行事を振り返って『伝統文化とポップカルチャー』というテーマでお話したいと思います。児島は繊維産業が盛んな街です。先日児島の髙田織物の社長さんの講演を聴く機会がありました。その講演のタイトルが『伝統文化からポップカルチャーへ』でした。髙田織物は畳縁を製造販売している会社です。和室の畳を思い浮かべてください。畳の縁に黒だったり、模様だったりしますが、縁取りがされていると思います。それが畳縁で、畳の角を補強し、隙間にほこりが溜ることを防ぎ、畳空間を彩る働きがあります。岡山県の生産は全国シェア80%を占めているそうです。しかしそうなるまでには相当な苦労があったそうです。畳縁はなかなか一般には認知されず、新しい畳縁を作っても売れず、住宅が洋風化して畳の需要も減り、後継者もだんだんいなくなり、このままでは児島の畳縁産業が衰退してしまうと危機感を覚えた髙田社長は、世間の認知度が低い畳縁をいかに売るかではなく、いかに知ってもらうかをずっと考えていたそうです。国内畳市場の縮小と、認知が進まなく、半端が残る等の課題を解決するために、畳縁としての既存のマーケットとのすみ分けを図り、畳以外に使用する別の用途を開拓しました。様々な企業ともタイアップした模様を作り、畳縁のイメージを変えていきました。髙田織物のビジョンは「伝統文化からポップカルチャーへ」というものです。畳という日本文化を象徴する伝統的なものの良さを残しつつ、現代の我々の生活に溶け込むような新しい視点で製品を作り、発展させています。それは単に自分の会社のためだけではありません。髙田さんはこの畳縁を通して繊維の街としての児島をジャパンクオリティーの繊維製品を持続的に供給することができる街にすることを目指しています。自分の仕事は自分のためだけでなく社会のためという信念は素晴らしいと思います。
 児島には他にも塩の生産で財をなした旧野崎家住宅があります。行ったことがありますか。この旧野崎家住宅は国指定重要文化材となっており、映画『ミステリと言う勿れ』のロケ地としても使われています。ここを管理運営している竜王会館という公益財団法人は「所有施設を公開し、塩業史料を保存・展示して学術研究を行い、地方文化水準の向上に寄与する」ことを目的としています。そのおかげで本校で能楽の芸術鑑賞会を実施していただきました。能楽師とお囃子の方が来られましたが、その中には人間国宝の方もいらっしゃいました。皆さんのほとんどは能楽を見るのは初めてだったと思いますが、本物の迫力に圧倒され、解説もあったので能楽を楽しむことができたと思います。観世流能楽師の林宗一郎さんが「この何百年も続く伝統文化を是非若い人へ伝えたい。野崎家には約80もの能のお面がある。すべて博物館行きでもおかしくない非常に価値あるものだが、こうして使わせてもらっている。このように本物を使って若い皆さんに是非能楽の面白さと素晴らしさを伝えたい。このような素晴らしい伝統文化が自分の通う高校がある地域に大事に保存していることに誇りを持ってください。」と言われました。伝統文化を守って次の世代に伝えるには誰かがそうしようと強い意志を持って動かなければすぐに廃れてしまいます。能楽や狂言は数百年前、スマホもテレビも無い時代の人々の娯楽でした。それが伝統文化として現代まで続き、私たちも同じように楽しんだり感動したりできるのは奇跡のようです。
 そしてこの伝統文化の能楽を堪能した一週間後、現代の芸能であるハラミちゃんのピアノコンサートがありました。ハラミちゃんはストリートピアノで活躍しYouTubeでも有名ですが、知らなかった人もいると思います。しかしあのように迫力ある演奏を目の前で見ることで、体中に音の振動が伝わり、このときも本物の演奏に感激したことと思います。あのときハラミちゃんが自ら話してくれたように、今をときめくハラミちゃんも長く苦しい時期がありました。ピアニストになろうと小さい頃から随分努力したけれど挫折し、会社員になろうとしたけれどまた体調を崩して挫折し、同じ会社の先輩の声かけでストリートピアノを始め、今のようになったというお話を聞きました。その中で、「今やっていることがすぐに花開かなくてもいつかは役に立ったり表に出たりすることがあるからそれは冷凍保存しとけばいい、それから自分にとって大切な人に出会うのは人生の今のステージではなく、次のステージかもしれないし、その次のステージかもしれない、だから悲観しなくても大丈夫だよ」という話をしてくれました。本当に体験した人の話はぐっと胸にくるものがあったと思います。ハラミちゃんの耳コピでの即興ピアノ演奏もすごかったけれど、自分の過去をみんなに語ってくれたあの話も本当に心に響きました。ストリートピアノから始まったポップスピアニスト、ハラミちゃんの演奏はまさに現代のポップカルチャーの象徴です。このストリートピアノというポップカルチャーがどんどん広がっているのは皆さんよく知っていることでしょう。
 この2学期は、伝統文化とポップカルチャーの両方を堪能することができました。これは皆さんの周りの人々が皆さんのために企画し、様々な苦労を経て実現したことです。そのことにも感謝して、今後は自ら伝統文化とポップカルチャーを求めて、自分の生活を、自分の人生を豊かなものにしていってもらいたいと思います。この冬休みはたくさんの伝統文化とポップカルチャーに触れる機会がありそうです。ではまた3学期に元気でお会いしましょう。